主に細幅鍵盤の事を、個人的な戯言を交えながら徒然なるままに書いているブログです。このブログの趣旨をまとめていますので、初めてお越しの方は、宜しければカテゴリ欄の「記事の概要」をご一読ください。
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鍵盤幅と手の大きさの不適合に起因すると思われる問題
まず始めに、皆様にお知らせがあります。
このブログでも、細幅鍵盤ピアノの特注を受け付けているメーカーとして度々紹介させて頂いていたウイスタリアピアノですが、つい最近、細幅鍵盤の製造から撤退してしまわれたのだそうです。
大変残念なことですが、ウイスタリアピアノに問い合わせてくださった方の話によれば、担当の方が「またそのうち再開するかも知れませんが」と仰っていたそうなので、希望を捨てずにそのときを待つとしましょう。
(問い合わせが多ければ、もしかしたら再開してくださるかも・・・)


前回の記事でも書いたように、欧米で実施された調査によって、成人男性の手のスパン(手を最大限に張った親指から小指までの幅)は成人女性より平均でも約2.5cm大きいということが明らかになっているそうです。
これは、標準鍵盤では男性が女性よりも平均的に白鍵1個分以上広く届くことを意味しています。

あらゆるピアノ曲を無理なく弾くには最低でも鍵盤の手前から10度届く必要があると言われていますが、その為に必要な手のスパンは21.6cm以上だそうです。そして、10度届く手を持っている人の割合は、成人男性では約80%なのに対し、成人女性では約20%しかいないということです。
この割合の差も、現在の鍵盤が「欧米人男性の手の大きさに合わせられた鍵盤」であると言われる所以でしょう。
これはあくまでも欧米で実施された調査ですので、日本を含めたアジア諸国では更に低い割合になるかもしれません。
※詳しくはこちら↓
http://littlehands782.blog.fc2.com/blog-entry-47.html

ピアノの鍵盤が現在の幅で定着して以降、割と早い段階で鍵盤幅と手の大きさの問題が浮上していたのか、1929年には、ドイツのオットー・オルトマンによるThe three factors of hand width, finger length and finger abduction, ...., will explain a surprisingly large number of technical difficulties that are often wrongly attributed to defects of coordination or studentship(手の幅、指の長さ、および指の[筋肉の]外転の3つの要素は、調整または学生の身分であることの欠点に誤って帰属されていることが多い、驚くほど多くの技術的困難について説明するだろう)と、Fine dynamic gradation with the fingers in extreme stretches is physiologically impossible(極端な範囲の指による、すばらしく力強い漸次的変化は生理的に不可能である)という論文が書かれています。
※詳しくはこちら↓
http://littlehands782.blog.fc2.com/blog-entry-49.html

30年以上前からパフォーミングアート医学という分野が創始しているそうで、アメリカの医学雑誌、MPPA - Medical Problems of Performing Artists(アーティストの医学問題)に、この分野に関する論文が多数掲載されています。
そして今年、そのMPPAにPRMD - Playing-Related Musculoskeletal Disorders(演奏関連筋骨格疾患)についての社説、The Keyboard Instrumentsが掲載され、その中で細幅鍵盤の必要性についても言及されています。

鍵盤楽器の医学問題に関する論文より、ピアノの専攻学生では年間で100人中13.1人が上肢のPRMDを発症していて、オルガンの専攻学生の年間のPRMD発症率(100人中7.2人)より遥かに高いことが分かったと社説にあります。
そして、このブログで翻訳文を掲載しているサイト、Pianists for Access to Smaller Keyboardsも紹介されています。

この社説の中では、幾つかのより重要とされる研究に焦点が当てられています。

北テキサス大学がインターネットを使った演奏家の健康に関する調査を実施し、21歳から50歳の範囲が75%を占める、ほぼ男女均等の約450人のピアニストから回答が得られたそうです。
それによれば、全体的に59%がPRMDを患い、PRMD発症の危険性は、年齢が若いことや女性であることに関係しているものの、毎日の演奏時間や演奏される音楽のタイプには関連していないと報告されています。

酒井直隆医師の、手の痛みを伴う200人のプロ・ピアニストあるいはピアノの学生(ほとんどが女性)に関する報告書が2002年に公表されているそうです。
これによると、18歳から66歳までの範囲の平均年齢26歳の対象者70人が調査を受け、2~13時間に及ぶ症状の発現の前に1日平均およそ4時間の練習をしているとの報告があり、その診断は神経障害の28の症例を伴う筋骨格系の領域が中心で、通常オクターブやコードなどの練習をしているときに症状が発現しているとのことです。

古屋晋一氏とその他の同僚の研究者による論文、Prevalence and causal factors of playing-related musculoskeletal disorders of the upper extremity and trunk among Japanese pianists and piano students(日本人ピアニストおよびピアノの学生の間の上肢および上幹の演奏に関連する筋骨格疾患の罹患率と原因となる要素)が2006年に発表されているそうです。
これによると、高校やそれ以上のレベルの15歳から60歳の範囲の対象者が調査を受け、日常の平均練習時間は大学生が180分と最も多く、それ以外の対象者は150分で、77%が上肢および上幹にPRMDを発症しているとの報告があったそうです。
この研究により、過度に筋肉が緊張する部位と同じ領域でのPRMDの発症との相関関係が示されたとのことです。

これらの研究から、この社説では、ピアノの演奏によってPRMDを発症する危険性は女性に高いようであり、細幅鍵盤を利用することでこの危険性を減らすことが出来るかもしれないと言及されていて、ピアノは最も一般的に演奏されていて最も高くPRMDの発症率に関連する楽器の1つであるので、ピアノに関する研究文献全体の正確な調査を緊急にする必要があり、パフォーミングアート医学の分野にとって最優先のこととすべきであるとされています。
※詳しくはこちら↓
http://littlehands782.blog.fc2.com/blog-entry-65.html


下のグラフを見て頂ければお分かりになるように、酒井直隆医師によれば、ピアニストに最も多いのは腱鞘炎で31%。次いで筋肉が骨にくっついている部分が炎症を起こす付着部炎(24%)、筋肉痛(16%)の順であり、その原因となったテクニックを調べると、親指と小指を広げて鍵盤をたたくオクターブ(43%)と和音(32%)が圧倒的に多く、指を強く打ちつけて大きな音を出すフォルティッシモは8%にとどまっているとのこと。痛みの大部分は関節を動かす筋肉や腱の炎症であり、特に指を広げた状態での打鍵は手を痛めやすいということです。

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※詳しくはこちら↓
http://www.47news.jp/feature/medical/2012/01/post-618.html

上記のMPPAの社説の中にもあるように、音楽家の手の障害の発症率については海外では半分以上との報告もあり、高頻度であることは間違いないと酒井医師は言及しています。

そして問題なのは、日本では音楽家の手の障害についてあまり知られていないという事です。
「手の障害を発症するのは弾き方が良くないせいだ」という意識もあるようですし、もし故障があることが知られれば、他の人に取って代わられて演奏の場を失いかねないという懸念を演奏家の方々が抱いている為に、調査しても本音を言わないとのこと。そのため、国内の実態がよく分かっていないのだそうです。


前の記事に書いたように、たくさんの代表的なピアノ曲が作曲された時代のピアノに比べて、現在の鍵盤は、その幅のみならず、重さもずっと重くなり、深さも倍になっています。
当然ながら、その分演奏する時の腕や手にかかる負担は大きくなっているでしょうし、演奏者の健康上の問題はかなり深刻な状況になっていると思われます。

確かに手が小さくても素晴らしい技術を身につけて障害のリスクを上手く回避されている方もいらっしゃるでしょう。ですが、それは手の小さい演奏者全てに要求できることでしょうか。
楽器の演奏に限らず、世の中には人並外れた精神力と努力であらゆる困難を乗り越える人が居ます。
それはそれで賞賛に値することですので否定するつもりは無いのですが、これはあくまでも“稀な”ケースですし、こういったケースには往々にして大きな危険性が伴っていたりします。
ピアノの演奏で言えば、正に上記で示したようなPRMD(演奏関連筋骨格疾患)などといった危険でしょう。

努力は確かに大事な事ですが、その“努力”が本来の目的に支障をきたすようなものであっては、元も子もないように思えます。
同じように努力を必要とするスポーツの世界では、 昔、根性、気合いの名のもとに「うさぎ跳び」や「タイヤ引き」などが行われていたのが、身体に過度の負担をかけ故障を招くとして行われなくなり、今ではスポーツトレーナーが就いて選手の健康に配慮したトレーニングが行われるようになっています。そして言うまでもありませんが、身体に合っていない靴や装備を使う選手はいませんし、もし合っていなければ、本来の力が発揮できないばかりか故障を招く危険すらあります。
そのような配慮をしたからといって根性や気合いが損なわれるわけでもありませんし、今のスポーツ選手は“適切な”努力を重ねて昔以上の成果を挙げるようになっていますね。

音楽はスポーツとは目的こそ違いますが、身体の運動機能を極限まで高めて行われるという点では、やはり同じように健康への配慮が必要なのではないかと考えています。そして、そういった観点から、このブログでは細幅鍵盤の必要性を訴えています。

皆様はどのようにお感じになられたでしょうか。


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コメント

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[] 2014/09/01(月) 07:58 [編集]

Re: 管理人のみ閲覧できます
コメントありがとうございます。
後ほどそちらへお伺い致します。
LittleHands [URL] 2014/09/01(月) 14:07 [編集]

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[] 2014/09/01(月) 22:01 [編集]

Re: 管理人のみ閲覧できます
丁寧なコメントありがとうございます。
内容確認致しました。
LittleHands [URL] 2014/09/01(月) 22:19 [編集]

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[] 2014/09/02(火) 16:04 [編集]

先ほど、鍵コメで送信しました。
ご確認ください。
酢~ [URL] 2014/09/02(火) 16:05 [編集]

酢〜様
コメントありがとうございます。
貴重な情報を寄せてくださり、感謝しています。
先ほどそちらに伺って、鍵コメさせていただきました。
LittleHands [URL] 2014/09/02(火) 18:09 [編集]

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[] 2014/09/19(金) 21:07 [編集]

Re: 管理人のみ閲覧できます
丁寧なアドバイスありがとうございました!
LittleHands [URL] 2014/09/20(土) 08:16 [編集]

管理人のみ閲覧できます
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[] 2014/09/23(火) 10:19 [編集]

Re: 管理人のみ閲覧できます
ご確認ありがとうございましたm(_ _)m
気楽に頑張ります(^^)
LittleHands [URL] 2014/09/23(火) 11:11 [編集]

すごくわかりやすい記事で、なるほど、と感じました。
私は成人男性ですが、昔から手が小さく、自分より手の小さい方にはほとんどあったことがありません。
私は主にギターを弾くのですが、ギターでも手の大きさは関係ない、この人はこんなに手が小さくてもうまい、手に障害があってもうまい、根性が足りん、と言う人が多く、そのような方達は確かにすごいのですがまさに稀で、サイズが合わないと手首など痛めやすいと思っています。
鍵盤も少し弾くのですが、オクターブがやっとで、9度には届きません。
指は結構開く方で一直線にはなっているのですが‥
りー [URL] 2014/10/03(金) 23:09 [編集]

りー様
記事を読んでくださりありがとうございます。

やはり手の大きさに見合わないサイズの楽器を弾き続けることによる危険性について、もっと日本でも認知されなければいけないのだろうと思います。
手の障害の発症率の高さが知られれば、世の中の認識も少しは変わると思うのですが…

その事が知られていない為に、小さな手で大きな楽器を弾くことが“可能なこと”とされ、どうしても“甘え”ととられてしまうのだと思います。

ちなみにギターには小柄な人にも弾きやすい小ぶりものがあると聞いたことがあります。音色など、詳しいことは分かり兼ねますが。

細幅鍵盤ピアノについては、海外で徐々に認識が広まってきているようですので、そのうち日本のピアノ界にも影響を及ぼしてくるのではないかと思っております。
LittleHands [URL] 2014/10/04(土) 10:20 [編集]

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[] 2014/10/07(火) 14:29 [編集]

承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
[] 2014/10/07(火) 14:55 [編集]

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[] 2014/10/07(火) 20:33 [編集]

Re: 管理人のみ閲覧できます
色々とありがとうございます^ ^

なるほど、そういうことでしたか。
それが分かれば有力かもですね(^ ^)

ぼちぼちいきましょう!
LittleHands [URL] 2014/10/07(火) 20:41 [編集]

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