主に細幅鍵盤の事を、個人的な戯言を交えながら徒然なるままに書いているブログです。このブログの趣旨をまとめていますので、初めてお越しの方は、宜しければカテゴリ欄の「記事の概要」をご一読ください。
09 * 2017/10 * 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
03/25
“ピアノを弾くと手が大きくなる”?
前々回の記事"Attitudes and misconceptions"の翻訳文の内容は、問題の核心にかなり踏み込んだものでしたね。
特に4番目と5番目の内容を読んで、ちょっと思い当たる節が・・・


私の友人の中には、身長が167cmもあるにもかかわらず、骨格が細く華奢な体格であるせいか、152cmしかない私とほぼ同じ手の大きさの人がいます。もちろん、その友人もオクターブは手前から引っかける形でしか届きません。ちなみにピアノも小さい頃から小学生の間まで習っていたそうですが、手が大きくなることはなかったようです。

その一方で、身長はそれほど高くない(160cmくらい?)にもかかわらず、骨格が大きいがっしり体型であるせいか、10度届く手の大きさの人も居ます。

一般的には身長と手の大きさは比例している傾向があるのだとは思いますが、この友人たちを見ていると、そうではない場合も少なからずあるのではないかと思います。


「ピアノを弾いていればそのうちに手が大きくなって指が届くようになる」
という話を聞いた、若しくは言われたことがある方は多いのではないでしょうか。
私も小学生の頃にピアノを習っていた友達が言っていたのを覚えていますし、以前通っていたピアノ教室の先生からも言われました。

私の手はオクターブもまともに届かない(手前からどうにか引っかかる程度)くらいの大きさしかないので、どうにか手が大きくならないものかとお風呂で指の間を広げるストレッチなどをしたこともあります。(ピアノの先生から勧められました。)
確かに手が柔軟になって、多少は開きやすくなりました。
ですが、手のスパン(手を最大限張った状態での親指から小指までの長さ)が広がったのはせいぜい5mm程度。当然、たったそれだけではまともに届くようになるはずもなく、心持ち鍵盤の角に指が引っかかりやすくなったかな?くらいでした。既にほぼ180度開ききった状態なので、それ以上開く余地などありません。

普通に考えれば医学的根拠も無い話だと分かるのですが、どうにかならないものかと真剣に悩んでいる心境の時にピアノの先生からはっきりと「大きくなる」と言われてしまうと、その“希望”に縋りたくなって信じ込んでしまうものです。
当時、色んな事をして指の間を広げようとしていたのですが、あるとき知り合いの看護師の方から、手の関節はとても複雑な構造をしているから、そんな事をしていたら関節を傷めてしまう、無理な事をするのは止めるようにと言われました。
そして、看護師の方曰く、楽器を弾いたからといって、持って生まれた遺伝的な身体の大きさ以上に手が大きくなることなどまず無いだろうとのこと。

実際、小さい頃からピアノを習っていたにもかかわらず手が大きくならず、結局成長した今でもオクターブがまともに届かないという方(主に女性)がかなりいらっしゃるという事実、そして、ピアノを習うのは圧倒的に女の子が多いのに、ピアノの世界で華々しく活躍している人は圧倒的に(一般的に女性より手が大きい)男性が多いという異常な男女比(※)から見ても、“弾き続けることによって手が大きくなる”という話は、信憑性に欠けているように思います。

PASKによると、成人女性の手のスパンに対し、成人男性の手のスパンは平均で約2.5cm(だいたい標準鍵盤1個分)大きいとの調査結果が出ています。ちなみに10度届く男女の割合は、(おそらく欧米人の)男性で約80%、女性では約20%とのこと。
欧米でもピアノ人口は女性が多数を占めているそうですが、主な国際ピアノコンクールでの受賞者やプロ・ピアニストは、やはり男性が多数を占めているとのことです。ちなみに、バイオリンではこのような男女比は見られないそうです。
【参照】
鍵盤の歴史・手のスパンのデータ分析
細幅鍵盤を試したピアニストからの反響・主なピアノコンクールと演奏経歴での成功における性差


ではなぜ、このような実態が伴っていない『都市伝説』のような話が実しやかに世間に広まっているのでしょうか。

随分前の話ですが、テレビであるアコースティック・ギタリストの方が、“自分は小さい頃からギターをやっているから右手より左手の方が大きくなった”と話していたのを覚えています。
その方が両手を合わせてみると、確かに左手の指の方が若干長いような・・・という感じでした。
おそらくこれを観た方の大半は、“やっぱり楽器をやっていると手が大きくなるんだ”と思われたと思います。私も当時そう思いました。

ですが、これはこのギタリストの方の思い込みである可能性が高いです。
なぜかというと、
“人間の身体は、元々左右対称にはできていない”
つまり、誰でも手足の大きさは左右で若干異なっているからです。
ご自身の手のスパンを左右それぞれで計ってみられると、おそらくほとんどの方が、どちらか(おそらく左手)の方が若干大きいのではないでしょうか。
私も左手のスパンの方が右手より5mmくらい大きいですし、手を合わせたときも左手の小指の方が若干長いです。
靴を履いた時も、どちらか(おそらく右足)の方がきついと感じるのではないでしょうか。

この間、PASKの主要メンバーのロンダ・ボイルさんから私の手のスパンの長さを聞かれましたが、そのときも、左右で若干違っているかもしれないからそれぞれの長さを教えてほしいと言われました。
沢山の手のデータを集める中で、やはり“手の大きさは左右で異なっていることが多い”という結論に達していらっしゃるようです。

あと、これはあくまでも私の想像ですが、小さい頃からピアノを習い始め、成長に伴ってだんだん指が届くようになっていったのを、“弾いていたから手が大きくなった”と思い込んでいる方も中にはいらっしゃるのではないでしょうか。
小さい頃からピアノを弾いていた場合と、弾かなかった場合との両方のデータを同じ人で取ることが出来ないので、この件は状況証拠に頼らざるを得ませんが、上で書いたような状況から見ても、成長とともに指が届くようになった方は、ピアノを弾いていたからではなく、その手の大きさに成長するDNAを元々お持ちだったと考えた方が良さそうです。


これもかなり前の話ですが、この小さな手で弾く方法は無いものかと探していたときに、あるピアノ教育者の方のサイトが目に留まりました。
そのサイトは、“手が小さい場合の運指の方法”というものを解説したものでしたが、どう見ても普通にオクターブが届いている、下手すると9度くらいまで届いているんじゃないかという手を“小さい手”として解説されていました。
それを見たときに、“オクターブも届かないような手は、こういう方々の眼中には無いのだな”と悟りました。
確かに9度くらいしか届かない手はピアノの世界では小さい方なのかもしれません。
ですが、実際に手が小さくて本当に困ってらっしゃる方々は、オクターブもままならないような手の人(主に女性)です。そして、社会全体ではそういう方が意外と多いのです。

1880年代後半のヨーロッパ人の男性ピアニストが弾きやすいように設定された鍵盤だけしかない現在の状況では、ピアノの世界で上を目指せる人はどうしてもある程度手が大きい人に限られてしまいます。
ピアノの世界で活躍されている方々の中には、世間ではオクターブも満足に届かないような人が多いということをあまりご存知ない方もいらっしゃるのではないでしょうか。


このような認識のズレもまた、細幅鍵盤の普及を妨げる一因なのかもしれません。

にほんブログ村 クラシックブログ ピアノへ
にほんブログ村

ピアノ ブログランキングへ
スポンサーサイト
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 

トラックバック
トラックバック URL

Copyright © 2017 細幅鍵盤随想記|ピアノと鍵盤と、時々、戯言.
all rights reserved.