主に細幅鍵盤の事を、個人的な戯言を交えながら徒然なるままに書いているブログです。このブログの趣旨をまとめていますので、初めてお越しの方は、宜しければカテゴリ欄の「記事の概要」をご一読ください。
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今の鍵盤の幅になった時代背景と、スタインビューラーの鍵盤が誕生するまで - ALTERNATIVELY SIZED PIANO KEYBOARDS(和訳)
2016年の終わり頃に、細幅鍵盤関連の英語サイト、ALTERNATIVELY SIZED PIANO KEYBOARDS内が大幅に編成し直されました。
それに伴い、このブログでもこの英語サイトの和訳記事の内容を編成し直しています。
そのため項目があちこち移動していますが、内容自体は以前とあまり変わりませんので、何卒ご了承ください。

このページでは、『Keyboard history』という項目の和訳記事を掲載しています。

※ この翻訳文の元となる英語サイトの更新に伴い、翻訳文も2017年8月22日に更新しました。




Keyboard size - brief history
鍵盤のサイズ - 大まかな歴史


ピアノの鍵盤は昔からずっと現在のサイズというわけではありません。1784年から1876年の間、それらは現在よりも小さかったのです。
酒井氏(2008年)は、1559年まで遡って様々な鍵盤楽器の鍵盤のスパンの変化を立証しています。それらはクラヴィコードの180mmからモダン・ピアノの鍵盤の188mm (8個のキーの幅で測定された)までに及んでいます。
最も有名なピアノ曲の多くは、鍵盤が(細幅のキーを含んで)より小さく、曲目にオクターブより大きな音程が滅多に含まれていなかった1750年から1850年までの時代に書かれています。

19世紀には、リスト(Franz Liszt)などのヨーロッパ人作曲家が大手メーカーと強い結び付きを持っており、メーカーは彼らの製品を市場に出すために、これらの作曲家や名演奏家の巡回公演を企画しました。
彼らはさらに、コンサート・ホールの建設や管理も行っていました。例を挙げれば、アントン・ルビンシテインパデレフスキが、ともに1800年代後半にスタインウェイのために米国で巡回公演を行っています。

ピアノの演奏は、中流や上流階級の女性の(料理や裁縫のように)非常に望ましい嗜みと考えられていました。彼らにとってピアノは、求愛(求婚)に関する慣例など、家庭的な行為に欠かせないものだったのです。
自宅で演奏していたアマチュア(殆ど女性)と人前で演奏する演奏家(殆ど男性)との間には明らかな区別が存在していました。1800年代にパリ音楽院で男性と女性のための別々のコンクールが開催され、女性には凛として女性らしく淑やかであることが求められ、カール・ツェルニーなどから幾つかのタイプの曲目を弾かないよう警告を受けていました。男性との直接比較が歓迎されていなかったのです。
チェコの会社は『婦人』用のより小さな鍵盤を販売していました。

現在の鍵盤のサイズは、リストなどがメーカーに積極的に関与していた時代から間もない1880年頃まで遡ります。
それ以後の注目すべき例外としては、前世紀の初め頃にヨゼフ・ホフマン(Josef Hofmann)のためにスタインウェイ・アンド・サンズによって特別に造られた(キーの幅の狭い)小さな鍵盤が挙げられます。1986年に、スタインウェイ・ハンブルグがクリストフ・ワグナー教授(Prof Dr Christoph Wagner)(1974-1993年、ハノーバー音楽生理学研究所(Hanover Institute of Music Physiology)の創設者兼責任者)に提供した証拠によれば、ホフマンの鍵盤は標準のものより3.5cm細くなっていたとのことです。これは標準より0.5cm小さい16cmのオクターブ幅という意味です。
ワグナー博士宛ての手紙の原本のコピーと英訳がこのページの下部で入手できます。
ホフマンの手のスパンに関連したこの鍵盤に対する更なる見解については以下をご参照ください。
http://www.paskpiano.org/need-for-narrower-keys.html

19世紀と20世紀の間の他の変化としては、アクションがより重く、より深くなる原因となった弦の張力の増加をもたらす鋳鉄フレームの使用、キーの長さ、白鍵の上の黒鍵の高さ、そして白鍵と黒鍵の垂直の下がり込みが挙げられます。ピアノが進化するにつれて、そして(プロやアマチュアの)ピアニストが自分の地域外へ移動し始めるにつれて規格化の必要性が高まりました。前世紀に行き渡ることとなった『どんな人にも合うフリーサイズ』という手法はこれに由来しています。

『ピアノのサイズもまた、少年と少女に違う影響を及ぼしました。18世紀においては、ピアノはハープシコードくらいの大きさで、大抵はより小さいものでした。19世紀の初めでもやはり、床面の高さに登場したペダル、両方向に大きくなった鍵盤、そして最新の曲目に度々現れるオクターブのパッセージによって、ピアノは突然、それを習う子供達にとって、大人の世界で応えるために彼らがどれほど頑張らなければならなかったかという気力を失わせるような日々を思い出させるものになってしまいました。子供は異なる速度で成長し、人より早く成長してピアノが弾けるようになる子もいます。ですが、少年達よりはるかに多くの少女達が、楽器も、そして大きな手の男性によって作曲された曲目のパートも、自分達の手が届く範囲には全く無いのだろうと感じていました。楽器自体がサイズを変えようとしなくなったので、それに適応するため、ピアニストの椅子が子供や様々な大きさの演奏者を助ける為の一般的な主要手段となっています。』
・・・・パラキラス(Parakilas)他、1999年、ピアノの役割(Piano Roles)、p.151

ラルフ・マンチェスター博士(Dr Ralph Manchester)は、『どんな人にも合うフリーサイズ』という手法の問題について以下のように約言しています。

『楽器の設計は長い期間をかけて徐々に展開してきており、それが現在私たちの直面している問題の一端となっています。それらの楽器の設計者はほとんどの場合、数十年もの間住まいも仕事も主にヨーロッパにあった数世紀前の(女性よりはむしろ)男性達でした。彼らが、自分たちが使えて、殆どが男性だった当時の大多数の音楽家に支持される楽器を設計した可能性が高いです。現在音楽家は、はるかに多くの女性、比較的少数のヨーロッパ系の人々、そして様々な身体障害のあるより多くの人々を含んだ、より多様なグループから成っています。それにもかかわらず、私たちは、ほとんど同種のグループのために設計された楽器を未だに演奏しているのです。』
(社説、MPPA、2006年12月)

1880年以降、ピアノを専攻するアジア系の学生数が大幅に増加しただけでなく、演奏家としてのキャリアを積むことを目的として高等レベルのレッスンに取り組む女性も非常に増えていきました。女性の手は男性よりも約15%小さく、アジア人の手は白色人種よりも小さいのです。加えて、20世紀のピアノ曲は、17~19世紀に作曲された曲目よりも大きな手のスパンを度々必要とします。


The invention and development of the DS standard® piano keyboard with narrower keys
キーの幅の狭いDS規格®のピアノ鍵盤の発明と開発

1990年代の初め頃に、カナダのブリティッシュ・コロンビア州出身のピアニストで作曲家、および指揮者のクリストファー・ドニソン(Christopher Donison)氏は、ペンシルベニア州の繊維製品メーカーで技術者のディビッド・スタインビューラー(David Steinbuhler)氏と出会いました。
彼らは共に、広く利用可能になりつつある第2の公式な鍵盤サイズ(DS規格®)の長期目標を抱き、それを生み出しました。

最初の試作鍵盤は、スタインビューラー社によって1994年に造られました。
1996年に同社で初めて販売されたのは、それを試してみるためにカナダのブリティッシュ・コロンビア州から飛行機で飛んできたカナダ人ピアニストのリンダ・グールド(Linda Gould)氏へのものでした。彼女は、自身のヤマハのグランドピアノ用にDS5.5®鍵盤を買うことを即決しました。

スタインビューラー氏は1998~2005年の間、全種類のピアノの鍵盤のサイズを試すために、ペンシルベニア州のタイタスビルにある彼らの施設に成人のピアニストを招待しました。参加者は、検証作業や大きさの違う鍵盤の間での交換に数時間から数日間もの時間をかけることができました。従来の鍵盤に加えて、少なくとも2つのより小さな鍵盤サイズに対する強い欲求があることが明らかになりました。
より小さな手をしたピアニストのための最も実用的なサイズの鍵盤を決定するため、全体幅で38~42インチ(96.5~106.7cm)ある5つの鍵盤を使った詳細な調査が行われました。およそ15人のピアニストがこれらの鍵盤を試しました。全員が最も小さな鍵盤を演奏することを望みましたが、40インチ(約101.6cm)未満では、指が細く、最も手が小さい人達を除く全ての人達にとっては黒鍵の間のスペースが窮屈になりすぎてしまうことが判明しました。

そのため、鍵盤の小さいピアノを設置する初めての米国の大学であるテキサス州の南メソジスト大学は、2000年に最も小さいサイズの手のための利用可能な最善の選択肢として41インチ(約104.14cm)を選びました。SMU(南メソジスト大学)の鍵盤楽器学科の学科長であるキャロル・レオーネ博士(Dr Carol Leone)は鍵盤の利点に関する研究を始めました。
これらの小さい鍵盤アクションは、最低限の技術的な調整をするだけで、同じ製造社やモデルのピアノに取り付けることもできます。レオーネ博士は、彼女の鍵盤アクションを持参して移動し、他のアメリカの大学でのその使用を実証しました。
結果的にこれらの大学の殆どが学生の使用や更なる研究用に自校の鍵盤アクションを入手しました。

その後3つの規格が次の通りに確定しました。(既定のオクターブ測定値は7つの白鍵の全幅を示す)

  • DS6.5™(標準鍵盤)
    オクターブ: 6.5インチ(16.5cm)
    全幅: 48.29インチ(122.7cm)

  • DS6.0®(ユニバーサル鍵盤、標準の15/16の幅)
    オクターブ: 6.0インチ(15.2cm)
    全幅: 44.57インチ(113.2cm)

  • DS5.5®(7/8鍵盤)
    オクターブ: 5.54インチ(14.1cm)
    全幅: 41.14インチ(104.5cm)

スタインビューラー社はここ最近、さらに小さい以下のサイズを追加しています。

  • DS5.1™(子供用鍵盤)
    オクターブ: 5.11インチ(13.0cm)
    全幅: 37.94インチ(96.37cm)

上記のホフマンの鍵盤のサイズはオクターブが6.3インチ(約160cm)で、DS6.5™とDS6.0®の間のサイズでした。

近年、著名なピアニストで指揮者のダニエル・バレンボイム氏は、細幅のキーの鍵盤のスタインウェイでの周遊や公演を行っています。


*Notes on terminology
※ 用語に関する注意事項

ESPK(ergonomically scaled piano keyboard(人間工学的にスケーリングされたピアノ鍵盤))という用語については、現在の『一般的な』サイズ(すなわち6.5インチのもの)より小さい鍵盤を指す際に、現在は主に学界にて使われています。
『reduced-size keyboard(サイズを小さくした鍵盤)という用語を使用している文献もあります。ここで留意すべきもやはり、キーの幅が『一般的な』鍵盤のほぼ7/8(ただし、少しだけ異なる)であるために、DS5.5®がよく『7/8鍵盤』と称されていることです。同様に、DS6.0®も15/16鍵盤と称されることが多いです。
ESPKは他のサイズ、すなわちDS規格に当てはまらない鍵盤も含んだ総称です。『DS』という略称は、Donison-Steinbuhler(ドニソン-スタインビューラー)を表しています。(クリス・ドニソン氏とディビッド・スタインビューラー氏は、主に北米でアコースティック・ピアノ用のキーの幅の狭いピアノ鍵盤の導入への道を切り開きました。)
PASK運動(Pianists for Alternatively Sized Keyboards(鍵盤サイズの選択を支持するピアニスト))では、『reduced size』がキーの数が少ないという意味を暗に含み得ることでの言葉の意味の取り違えを防ぐため、『alternative sizes(選択できるサイズ)という一般用語を使用しています。


References and links
参考資料とリンク

http://www.steinbuhler.com/html/our_research.html

http://www.nytimes.com/2008/11/23/arts/music/23kimm.html?pagewanted=all&_r=2&

https://en.wikipedia.org/wiki/Social_history_of_the_piano

Booker, E., & Boyle, R.(ブッカー・E & ボイル・R)(2011年)
Piano keyboards – one size does not fit all! Pianistic health for the next generation.(1つのサイズのピアノの鍵盤が全ての人に合うわけではない!次世代のピアノ演奏の健康。)
Proceedings of the 10th Australasian Piano Pedagogy Conference(第10回オーストラレーシア・ピアノ教育学会議の議事録): Leading Notes to Effective Teaching(効果的な教育への導音): Resolving the past - Exploring the future(過去を解決し、未来を探究する), Charles Sturt Universityチャールズ・スタート大学), Wagga Wagga, 4-8 July 2011(ウォガウォガ、2011年7月4日~8日).
http://www.appca.com.au/2011proceedings.php

Deahl, L. & Wristen, B.(ディール・L、およびリステン・B)(2003年)
Strategies for small-handed pianists.(手が小さいピアニストのための戦略。)
American Music Teacher(アメリカン・ミュージック・ティーチャー), 52 (6), 21-25.

Donison, C.(ドニソン・C)(1998年)
Small hands? Try this keyboard, you'll like it.(手が小さい?この鍵盤を試してみてください。あなたはそれを気に入るでしょう。)
Piano & Keyboard, July-August(ピアノ・アンド・キーボード、7月~8月), 41-43.

Donison, C.(ドニソン・C)(2000年)
Hand size versus the standard piano keyboard.(標準のピアノ鍵盤と比較した手のサイズ。)
Medical Problems of Performing Artists(アーティストの医学的問題), 15, 111-114.
http://chrisdonison.com/keyboard.html

Manchester, R.(マンチェスター・R)(2006年)
Musical instrument ergonomics (editorial).(楽器人間工学(社説)。)
Medical Problems of Performing Artists(アーティストの医学的問題), 21 (4), 157-158.

Parakilas, J. & others.(パラキラス・J、および他)(1999年)
Piano Roles: Three Hundred Years of Life with the Piano(ピアノの役割: ピアノのある人生の300年), Yale University Press(イェール大学プレス), New Haven and London(ニューヘイブン及びロンドン).

Sakai N.(酒井・N)(2008年)
Keyboard span in old musical instruments.(古い時代の楽器の鍵盤のスパン。)
Medical Problems of Performing Artists(アーティストの医学的問題), 23, (4), 16-171.

Wagner, Ch.(ワグナー・Ch.)(2005年)
Hand und Instrument.(手と楽器。)
Breitkopf & Härtel(ブライトコプフ & ヘリテル), Wiesbaden-Leipzig-Paris(ヴィースバーデン・ライプツィヒ・パリ), p. 228-240.


PDF
steinway-letter_to_chwagner
_hofmann-keyboard_1986_original.pdf

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PDF
steinway_wagner_hofmann-keyboard
_1986_engl2017.pdf

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これまでどうにもスッキリしていなかった点が、今回の翻訳でようやく合点がいった感じでした。
と言うか、このサイトを最初に翻訳するべきでしたね

いくらヨーロッパ人の男性ピアニストが多かったとは言え、女性に合うという謳い文句で売り出されたピアノもあったくらい女性のピアノユーザーも多かったはず。なのに、なぜこうもモダンピアノの開発では女性への検討が全くなされていなかったのか・・・。

造られた時代も時代なので、もしかしたら男尊女卑的な意識もあったのかな~、と薄々は感じていたのですが、こんな状況だったとは・・・正直驚きでした。

要するに、「プロとして観客の前で色んな曲を演奏するのは男性の領域である。女性が男性と同じ曲を弾くなんて考えるべきではなく、家庭内で、“女性らしく”、“お淑やかに”特定のタイプの曲だけを弾いている方がいいのだ。」という社会的な風潮が濃かった中でのモダンピアノの開発。
モダンピアノは大きなホールで弾くために造られたピアノですから、女性がステージ上に上がることを想定していない当時では、女性への検討などなされるはずもなかったわけです。
ましてや時代的にアジア人などは最初から眼中にも無かったでしょうし。

中田喜直さんの著書の「音楽と人生」の中では、今の鍵盤の幅になった理由はどの文献にも書かれていないので分からないとあるのですが、このような風潮の中で当然のようになされたことですから、理由がわざわざ文献などに残っていないのも頷けます。

今まではこの事が知られていなかったので仕方がないのですが、このような経緯だとしたら、“男尊女卑の風潮の中、欧米人男性が弾くことしか想定されずに決められた鍵盤”だけしか、公での使用を認めていない今の状況を今後も続けていくことは、これからの時代、ある意味問題のように思います。


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